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父の15年戦争戦後編(1)毛沢東の弟子

P1030879_2 天安門上の毛沢東、その横鄧小平、右端劉少奇、1950年頃。筆者所蔵
毛沢東の弟子
「わしは毛沢東の弟子じゃ」父が亡くなる半年前に言った言葉だ。私が朝仕事にかかる前に父とお茶を飲みながらいつものように昔の中国の話や戦争の話などをだべっていたとき、ふいに言った。
「わしがいた第四野戦軍は林彪が総司令官で林彪は毛沢東の一番弟子やから、わしは毛沢東の弟子じゃ。ファハッハッ…」無理にこじつけて照れくさかったのか父は愉快そうに笑った。父は自他共に認める中国びいきだった。親戚の間でも有名で、「おっちゃんは中国に長いことおったからなあ」とよく言われた。毛沢東に心酔していたことも、日ごろの言動から私は良く知っていた。
 

父は日本に引揚げてきてから、日本共産党に入党、日中友好運動にものめりこんでいった。当時日本と中国とは国交はなく、いや正確に言うと台湾(中華民国)が正統な中国で国交があり、中華人民共和国は中共といって日本は敵視し、戦争状態が続いていた。中共と日共は仲間とみられ家には公安刑事がよく来ていた。きちんとした服装をしていて、ネクタイをしている刑事さんは田舎では珍しく、私が普段から見慣れている農家の人や、よく飲みにきていたヨッパライとはまるで違う世界の人のようだった。私は警察官には制服を着ている人と私服を着ている人がいることを知った。

母の姉婿が刑事で熊本市の伯母宅に遊びに行ったとき、伯父がいつも帰るのが遅く、「きっと張り込みで今夜も遅いわ」なんて伯母は普通にしゃべっていた。
我が家も公安刑事から父はよく張り込まれていたと思うが、母は苦笑いをしながら姉の言葉を聞いていたのだろうか。そのころ父を尋ねてくる人間は、ヨッパライ、ばくち打ち、チンピラ、借金取り、裁判所の差し押さえ人、右翼、共産党員、公安刑事、など個性的な人が多かった。

洗脳
 毛沢東、共産党、引揚者といえば洗脳という言葉が聞こえてくる。私が洗脳という言葉を知ったのは中学2年の歴史の時間だった。その頃中国ではプロレタリア文化大革命が勃発し、毛沢東語録を掲げた紅衛兵の嵐が吹き荒れていた。私は朝日放送の「ヤンリク」という深夜放送を聴きながら、時折ダイヤルを少しずらし北京放送も聞いていた。
 3月に入り、歴史の授業が大幅に遅れていたので近・現代史の追加授業を道徳の時間にやる事になり、社会の先生に代わって教頭先生が教壇に立った。
 授業の最後の方で冷戦の話から鉄のカーテン、竹のカーテンといった言葉がでてきて、「中共から引揚げてきた人間は洗脳されていて革命を企てている」というような事を先生はおっしゃった。ほとんどの生徒は意味がよくわからなかったと思えるが、私一人、両親のことを名指しされたのではないかと、どぎまぎした。あれから半世紀近く時がたつが、私は洗脳という言葉を見たり聞いたりするたび、心拍数は増え耳がピクピクするようになった。父は洗脳されたのだろうか・・・
 
 日本のネット社会の一部を見ると毛沢東はヒトラー、スターリン以上の大虐殺者とされているようだ。毛沢東が発動した文化大革命は中国社会に大きな傷あとを残し、当の中国共産党自身が「10年の動乱」と否定している。文化大革命のころ私のうちでは赤旗と産経新聞を取っていた。産経の柴田穂北京支局長が追放された事や、赤旗の紺野特派員と砂間一良日本共産党北京代表が北京空港で紅衛兵に半殺しにされ、命からがら日本に帰ってきたことも知っている。日本と中国の共産党はそれ以後32年間の長きにわたって敵対し断絶する。そのころ中国共産党は日本共産党を4つの敵(アメリカ帝国主義・ソ連修正主義・日本佐藤内閣反動政府・日共宮本修正主義一派)と呼び糾弾した。

 林彪事件、4人組逮捕によって文革は終息に向かうが、復活した鄧小平がレールを敷いた経済の改革開放路線で毛沢東の「永久革命」は否定される。にもかかわらず父は死ぬ前「わしは毛沢東の弟子」だと言い切った。父は中国革命に参加した7年間、夢でも見ていたのだろうか・・・
 

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